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増澤紗希子さん×足圧(そくあつ)セラピー
セラピストも整う足圧セラピー
増澤さんは足圧(そくあつ)セラピーのセラピストとして活躍中だ。
初めて「足圧」と聞いた時は、天井のバーを使って全身の体重を乗せるタイ式マッサージのようなアレをイメージしたけれど違った。
「片足は自分で立って、もう片足で踏みながら足の裏を巧みに使っていきます。手よりも踏める面積が大きいし、圧を調整してかけやすいから筋肉の深部までしっかりケアできます。痛みも少なくて揉み返しも少ないです」
足圧の魅力や特徴をそんなふうに教えてくれた。
デスクワークで腰痛や肩こりに悩んでいる人たちに効果がありそうだ。
「まさにそうですね。腰痛の場合はお尻のケアがすごく大事ですが、手でマッサージしづらい場所でもありますよね。セクハラとか言われたらいやだし。足を使うからできるんです。肛門の近くまでやって血流や筋肉の状態を整えたりするので腰痛も肩こりもすごく緩和されます。ケアの前後で血流も違います」
セラピストである増澤さん自身もとっても顔色がいい。
「足圧セラピーは、受ける側だけでなくケアする側も整うんです」と彼女は言う。
「内転筋や骨盤底筋も鍛えられて、セラピスト側のバランスが整うんですよ。足を使っていると脳が活性化されて血流が良くなります。背骨や骨盤の歪みも治ったりします」
足圧セラピーってめちゃくちゃすごくない??
「受ける人もセラピストも整うものって、他にはないと思うんですよね。足圧の特徴のひとつです」
縁やつながりを大事に
増澤さんは、色んな人が元気になっていくのを見届けるのが嬉しいという。
「足圧セラピーは趣味、天職」と笑う彼女は、本当に楽しそうだ。
いつもニコニコ楽しそうだけど、暗くなることはないの?
「暗くなること?ないかも。もともと明るい性格だし元気なほうだと思うけど、それだけじゃなくて、やりたいことがいつもあってそこへのワクワクをずっと感じている。だから暗くなることはないかな」
目指すものがある人はやっぱり前向きな明るさを放つものだと、増澤さんと話していると思う。
「誰かと出会ってその人と話すと、色々なヒントをもらえますよね。こういうことができるかも!この人のこういういいところを真似したい!この人の力を借りてこんなこともできるかも!自分の中で色々なことを考えています。そうすると、自分の叶えたい目標に近づいているんじゃないかっていう気持ちになるんですよ。そうやって思えることがワクワクし続けられる理由なのかも」
唐突に思い出したようにそう言ってくれた増澤さんには元気で明るい雰囲気がある。
この雰囲気に人が寄ってくるから、さらに色々なヒントをもらえてワクワクが持続する。
そんなふうにいいサイクルが回っているみたいだ。
人が暗くなる時って、何か困難にぶち当たった時でもあると思うけど、増澤さんには困難なことって起きないの?
「起こってますね。色々と。それを自分なりに解決しています。例えば、いつまでにこれをやると約束していたのに何にも連絡がない、連絡してもつながらないということもあります。そういう時は、この人はそもそもそういう人だったんだと思ったりします。そして私は、誰かが私に対して同じような気持ちになったら嫌だと思うから、誰かに対して同じことを絶対しないぞって思うようにしています」
ネガティブな出来事からもちゃんと学びを得ている。
これも増澤さんのポジティブさゆえのことか。
「今まで仲良かった人や協力してくれていた人が急に協力してくれなくなるとやっぱりショックは受けます。そういう時は、この人はここまでのお付き合いの人だったんだと考えるんです。人との繋がりや縁が大事。離れていく人は仕方ないです」
割り切りがすごくちゃんとできている。
自分がコントロールできることだけに集中する。
他人に期待をしない。
そうやって自分の機嫌が取れている。
「でもまた縁があればその時は戻ってきたり繋がったりします。だから大丈夫」
知っている声の安心感が現実を実感させる
こんなに明るい増澤さんでも、信じられないくらいのショックを受けた出来事がある。
「がんになったことがあって。肛門がんという希少がんでした」
努めて明るく、でもあの時を思い出すように、トーンを落として増澤さんは話し始めた。
「ある時から、トイレで排便をした後に、ちょっとした異常がありました。お尻がかゆかったり。でもネットで調べても痔としか出てこないし、自己判断で大丈夫だろうと思っていました。異常があったらすぐに病院に行くべきだったと思いますが、場所が場所で恥ずかしいし、病院に行くまでに半年くらいかかりました」
病院に行きたくないという気持ちもあって何となく先延ばしにしていた。
肛門科を受診した親友からたまたま連絡が来て、病院に行くことを強く勧められ、重い腰を上げて病院で検査を受けた。
「がんを告知されたときは、先生が本当に淡々と喋るから、何を言っているのか頭に入って来ませんでした。いま陽性って言った?陽性と陰性ってどっちがどっちだっけ?先生が話している間、そんなふうに頭の中がぐるぐるしていたのを覚えています。とにかく、え?がんなの?と混乱していました」
告知の後は、様々な検査の説明を聞き予約を取るために院内を看護師さんと一緒に移動して回った。長い長い3時間が過ぎて、会計が終わって病院の外に出た時、ようやく実感がわいてきたという。
「外に出たのはお昼過ぎでした。検査の結果を聞きに行くといって午前中の仕事を休んできていましたが、1時から会社で会議があったので、上司に電話しました。上司に、がんでしたと報告したら、『大丈夫?』と一声かけてくれて。いつも聞いている上司の声の安心感に涙が一気に流れてきたんです。それで現実味が湧いて、あぁ私はがんなんだって実感しました」
「なんで私なんだろう」
駐車場で車に乗って帰らないといけない。
そんな当たり前のことが頭では分かっているのに、身体はついていかなかった。
「駐車場までも歩きたくない。歩くイコール前に進む。こんなにポジティブな私が前に進みたくない。そこまで気持ちが落ち込んでいました。帰りたくもないしこの時間を過ごしたくない。気持ちが崩れ落ちていくような感覚でした。なんとか車に乗ってもアクセルを踏みたくない。でも帰らなきゃいけない。運転してもボロボロ泣いていました。いつも元気、いつも前向きで落ち込まないので、こんなボロボロの姿を家族に見せたくないと思って、何もなければ家まで10分の距離を、途中のすべてのコンビニに寄っては泣いて、落ち着いたら進んで、またコンビニに寄って...。5時間くらいかけて帰宅しました」
家族にボロボロになって泣いている姿を見せたくない。
あれほど思っていたのに、帰宅したらやっぱりまた泣いてしまった。
「家に帰って子どもたちの顔を見たらまた涙が流れてきて。『ママ、がんだった』の一言しか言えませんでした。前を向けなくなるってこういうことなんだと初めて分かりました。ご飯を食べることも前を向くことのひとつで、それもできませんでした。子ども達にそんな姿を見せたくないから、その日は家族が寝静まるまでひとりでずっとお風呂に入っていました。それからの一週間は記憶がほとんどありません」
それくらいショックを受けていた。
親より先に逝くのか。
子ども達を残して逝ってしまうのか。
本当に色々なことが頭の中を通り過ぎていった。
「なんで私なんだろう?って思いました。これはたぶん、がんになった人はみんな思うと思いますが」
足圧セラピーに出会って「あぁ、人間に戻った!」
「抗がん剤と放射線で治療をすることになりました。抗がん剤も放射線も本当に痛くてつらかったですが、痛みが引いて自分の脚で歩けるようになったのは治療が終わって1ヶ月後くらいからでした。それでも、後遺症で排便痛が残りました」
排便後の数時間、痛みが持続した。
それでも治療中の地獄のような痛みが永遠のごとく続いたあの経験に比べれば楽だと思った。
そんなとき、ある人からサプリメントが届く。
「そのサプリメントで排便痛が軽減して、外出先でもご飯を食べられるようになったんです」
それを機に松本から東京の友達に会いにいったところ、松本に住んでいるおじいちゃんへの届け物を託された。
「そのおじいちゃんが、後に足圧(そくあつ)セラピーの私の師匠になる人だったんです。届け物をしたことがきっかけで足圧で踏んでもらったら、体調がものすごく良くなって。身体も心もがん患者になっていたところに足圧を受けて、『あぁ、人間に戻った!』っていう感覚でした。感動して、足圧を教えてもらえるように頼み込んだんです」
最初は断られた。
熱心さが通じて教えてもらえることになった。
師匠に教わったことを家に持って帰ってきて、家族や友達に毎日やった。
筋肉痛を繰り返しながら技が身につき、身体も出来上がっていった。
「足圧で自分が元気になる体験をしました。これは私が多くの人に伝えないといけないと思ったんです」
みんなに病気になってほしくない
増澤さんは自分のセラピーの特徴や強みを把握している。
「指以外にも、足の母指球、側面、かかと、全体を使ってケアをしています。母指球のところはそんなに使える人がいないんです。母指球を使うことで横幅のこの広い範囲を全部押していける。力強く深部までアプローチできるっていうのが得意です。これは私ならではの技術だと思います」
増澤さんはこれからどんな未来に向かっているのだろうか。
「肛門がんのことをネットで探しても出てきませんでした。ネットの時代なのに。今でもきっとあの時の私みたいに孤独な人がいると思います。私の体験がそういう人にとっての勇気の一つになってくれたらいいと思っています」
肛門がんの人。
希少がんの人。
そういった人たちに経験を届けていきたい。
同様に痔の人や痔だと思っている人にも「自己判断は危険」と伝えたい。
「私自身、痔だと思っていましたから。自己判断は良くないです。肛門は病院に行きたくないから発見が遅れる場合があります」
経験者の言葉には重みがある。
「それから、がんを告知されて落ち込んだ時は、がんの情報を探したりするんですよね。そういう時に私を見つけて、私の発信を見て勇気のひとつにしてもらえたらと思います。また、がんになった当事者の家族の方たちにも伝えられることがある気がします」
そのために全国の人に講演活動をしていきたい。
「自分の健康を守るためにもセラピーは続けたいですし、たくさんの人に健康になってもらいたいから、足圧セラピーをやる人を増やしたいですね。講演活動と足圧セラピーをやる人を増やす。これが今の時点での将来の夢かなって思います」

